2016年1月のご挨拶

あけましておめでとうございます。2015年中は、オーケストラトウキョウ、響愛学園、化学オーケストラ、MFL管弦楽団、オーケストラまごころの皆様と演奏会をさせていただき、大変充実した一年であったと思います。他にも東京・大阪で数多くのオーケストラの皆さんと、リハーサルで音楽作りを共有させていただきました。多く方、オーケストラとの新しい出会い、懐かしい出会いがあり、たくさんのエネルギーを頂きました。音楽との出会い、人との出会いこそが、生きる喜びです。多くの方のご支援のおかげで、2016年も音楽を続けていけることに感謝を忘れず、指揮に取り組んでまいりたいと思います。

先月は、ホノルルで開催された環太平洋国際化学会議のイベントとして、化学オーケストラの皆さんと、コンベンションセンターやロイヤルハワイアンでコンサートをしてまいりました。


環太平洋国際化学会議

日本からだけではなく、ハワイのOahu Civic Orchestraのメンバーの方など多くの方のご協力、サポートを得て学会に参加された皆さんから多くの好評をいただけた楽しいコンサートになりました。リハーサル時間はわずかではありましたが、音楽を始めると、初めてお会いする方々とも、国境・言語の違いも越えて瞬時に心が通じ、ひとつの目標に向かっていける。この楽しさはやはり格別で、指揮をできる幸せをあらためて感じられた非常に貴重な機会となりました。関係者の皆様にこの場を借りて改めて御礼申し上げます。



ハワイでは人生で初めて、「海を楽しむ」ことを体験しました。海を見るのは好きで、車窓から海が見えると子供のようにわくわくする感情があるのですが、海水浴は小学生のとき以来していませんでした。なにしろ車椅子は、砂浜が大の苦手(前輪が砂にすぐ埋まってしまいます)、ようやく波打ち際に寄れたとしても波に翻弄されるばかりでなかなか楽しむことはできませんでした。地球上の約7割を占める海、その海の魅力、美しさを知らなければ人生相当損をしているに違いないと思っていたのですが、40歳にしてようやくこの念願をかなえることができました。旅行会社を通して「イルカと出会えるツアー」に申し込んだときは、どのツアーもすべて車椅子では参加不可能という回答だったのですが、個人的にコンタクトを取り、「ドルフィン&ユー」というツアー会社が参加OKを出してくれました。波の高い日ではありましたが、広々とした景色、透明度の高い海、イルカやウミガメとの出会い。初めてのシュノーケル体験は素晴らしいものでした。その日魚たちに出会うことがなかったので、波の静かなハナウマ湾にも潜りにいきました。(砂浜用の車椅子もレンタルできました)これからは、バードウォッチングに加えて、海の生き物たちとの出会いの魅力にもはまってしまいそうです。いやむしろ、はまってしまおうと思っています!


最後に、先月19日に亡くなられた指揮者のクルト・マズア先生の思い出をお話したいと思います。6年前の12月、私はマズア先生の講習会に参加して、交響曲第4番「イタリア」や「真夏の夜の夢」などメンデルスゾーンについて勉強する幸運を得ることができました。マエストロの「イタリア」は一般的に聞かれるテンポより遥かに遅いのですが、細部にわたるまで神経の通った繊細な音で、息を呑むような美しいppが印象的でした。先生は加齢で常に手が震えておられましたが、指揮台に立たれた途端、小さな呼吸と小さな動きでオーケストラの心をつかんでしまわれる想像を絶するような壮大なエネルギーをお持ちでした。繊細でかつ気性の激しい先生でいらしたのでいろいろと怒られましたが、講習会の後、先生に「君は指揮者としてふさわしいエネルギーを持っている。色んな困難があるだろうが指揮を続けていってほしい」と温かい眼差しでおっしゃっていただいたことは自分の宝です。先生にもうお会いできないことがとても寂しいです。心よりご冥福をお祈りいたします。

来月2月27日(土)に府中の森芸術劇場ウィーンホールでMFL管弦楽団の皆さんとメンデルスゾーンの交響曲第3番を演奏いたします。メンデルスゾーンの響きを聞くたびに懐かしくその当時が思い出されます。今後も、先生に頂いた勇気と覚悟を大切にして、音楽に取り組んでまいりたいと思います。